Hello Mr. 消えてくれ
 

 
 そう、アレは何時ものように仕事の後片付けをしていた時。

 突然私の目の前に現れた。

 私はミスターと呼んでいる。

 とても恐ろしい存在。

 気付かない間に職場だけではなく、油断すればいとも容易く家にまで現れる。

 幸いにして、未だ我が家には現れてはいないけれど。

 あの日最初にミスターを発見したのは、偶々近くに居た上司だった。

「おっ、立派なもんだな」

 上司のミスターを発見しての、第一声が其だったが故に。

「何がですかー?」

 私は無防備にも近付いてしまったのだ。

 ミスターの、直ぐ目の前迄。

「ひっ!」

 其だけ近付いてしまったのだから当然、私の視界にもミスターが。

 思わず後退り、デスクの角に腰強打……痛い。

 ミスターはその場に居るだけで、必要以上の恐怖を振り撒いてくれる。

 否、其だけではない。

 寧ろ其はまだまだ優しい部類に入るだろう。

 喩えるならば、ホラーハウスの玄関に過ぎない。

 本当の恐怖は、ミスターの姿が見えなくなってからだろう。

 何故ならまた何時、何処から、そしてどのようにして現れるのか。

 それが全くもって予測不可能なのだ。

 一度ミスターの姿を見付けてしまったら、都市伝説も真っ青の恐怖を覚悟するしかない。

 その上もう姿を隠してしまった、上司の見付けたミスターは。

「私の目の錯覚だと嬉しいんですが、また随分と……」

「育っとったな」


 ああっ、ジーザス!

 普段かなり信じてませんが、此からは少しくらい信じても良いから!

 だから、ミスターを何とかしてくれ……祈ろう、本気で。

「あんなに長くお育ちあそばしたミスターと一緒に仕事なんざ出来るかあぁぁぁああぁっ!!」

 私の腹筋も衰えてはいなかった。

 確認しなくても全く支障は無いながら、現実逃避をしたいのだ。

「いやぁ、俺もあんな大物は久しぶりだわ」

 仕事のファイルを取り落とし、絶叫する私を見ながら上司が笑う。

 ミスターの恐怖に脅えているのは、もしかしなくても私だけなのか?

 となると、この上司はミスターを放置するだろう。

 断言出来る。

 ミスターの影に脅える私を見ては、笑いに満ちた視線でからかってくるに違いない。

「あっ! 後ろ後ろ!!」

「ひゃぅっ!?」


 ……て、早速かっ!

 おのれミスター、必ずや此処から追い出してくれようぞ。

 そもそもミスターを発見したならば、親族が二桁は近くに潜んで居ると云うではないか。

 仕方が無いと言えばそうかもしれない。

 が、ビルの二階を賃貸している事務所に、ミスターが好みそうな炊事場等無いのだ。

 あのビッグミスターが何処から来たのか…。

 炊事場付きの一階フロアを賃貸している、あの会社しかあるまい。

 ふふっ…

「取り敢えず、明日アレ買ってくるか」

 明日にでも乗り込んで、確認してみるべきかも。

 どうせ買っても、この上司は使わないだろうから。

「少なくとも週一回の三週やりますから、三つは確保してきてくださいね」

 私がしっかり使ってやろうともさ。







 だからミスター?







 私の為に、消えてくれ。










「デッカいゴキブリと共存なんざ、真っ平ゴメンだっての!」