それは無垢なる
 

 
 そいつは言った。

「だってしょせん浮気だし」

 チープな恋愛映画を映し出すテレビを見つめながら、ただ何でもない事のように淡々と。

 暗い部屋の中、瞬きすらしない横顔に淡い光が反射する。

「浮気してるのは、本人から報告あるしナァ…」

 何で野郎二人で恋愛映画なんだとか、何でこの話になったのかとか、そんな事はこの際どうでもいい。

「なら何で、放置してんだよ」

 感性や感覚が全く同じ人間なんて、居たとしても気持悪いだけなのだが、それでも。

 普通悔しくないか?

 怒るか別れさせるか、いっそ別れるとか。

「いやホラ、だって僕たち束縛激しいから」

 ソファに深く沈み、にへらっと笑うその顔には、虚勢の翳すら出てこない。

「浮気容認してたら、普通冷めてるかと思うぞ?」

 そもそも普段の二人を見ていれば、コイツ等の束縛が激しいなんて思う訳が無い。

 思えない、の方が正しいか。

「本気じゃないなら、別に。僕だって時々遊ぶもん」

 悪びれもなく言ってのけ、唐突にリモコンを踏みつけた。

 一瞬にしてテレビ画面が暗転し、見ていた映画のディスクがデッキから姿を現す。

「後、一緒に外でナンパしたり…あ、カップルをね」

 違うディスクをセットして、またリモコンを踏む。

「で、ペア交換でダブルデートとか」

 流れだしたのは、何故かまたしても恋愛映画。

「それで何処が束縛激しいって?」

 アクション映画が見たいなぁ…とか考えつつも。

 すっかり冷たくなった珈琲を胃袋へ流し込み、何気なく聞いてしまって。

「お互い以外は在っても邪魔じゃないし困らないけど、別に無くても困らない」

 後悔。

 本気で思っているのだろう。

 キッパリと言い切るその表情は、いっそ清々し過ぎる程の笑顔。

「僕たちはね、何処までも伸びる桎梏が繋ってる。僕たち以外には、見えない」

「もしかして、ソレが束縛?」


 盲目的とも取れるその信頼は、何処から来ているのかなんて。

「ちなみに、言ったのは僕じゃなくて向こうだから」

 聞くだけ無駄。

「何処迄行っても逃げられない」

 繋っているなら必ず辿り着ける筈、てか。

「お前等ソレ軽く病んでね?」

「そうかもね。でもイイんじゃない? 僕たちは、それで納得してるもの」


 ロクに見てもいなかった映画は、既にエンディングのスタッフロール。

 どうせチャプターをスキップしまくったのだろうさ。

 興味が無いから、その程度。

 そいつは何が楽しいのか、鼻唄を歌いながらテレビを消した。

 やっぱり足で踏みつけて。