朧ぐ櫻と接吻を
 

 
 薄らぐ灯りの月の晩。

 櫻の根元が朱に染まる。

「あ…ァあ…私の、子が…ッ」

 両手で顔を覆い泣く女。

 目の前に、男。

「元から赤子はホラこの通り」

 細すぎる指先が踊ったならば、クン…と張る糸。

 操り人形の、ソレが。

 繋がる先は伏した赤子と。

「そんな…そんなっ!」

 認めるモノか、認めてなるか。

 糸の途中をたぐり寄せ。

「私の子を、返せえぇぇえッ!!」

 男の首へと巻き付けて。

「嗚呼、イイよ。俺を殺す?」

 けれどふわりと微笑みが。

 首の糸が食い込んで、微かに滴る朱の雫。

 泣いて鳴いて哭いて。

 女の腕、が、…

「アァァアアアァッ…!」

 朱の池、広がる。

「あーあ…また失敗」

 月夜に朧ぐ朱溜(アケダマ)り。

 静かな視線が、女を射抜く。

 あしもとから。

「っ…! 何で!」

 転がるソレが、ニヤリと笑った。

「どうしてどうしてどうして!!」

 アンタのクビはオチたのに。

 女が落とした。

 巻いた糸を引っ張って。

 いともあっさり、離れて落ちた。

 それなのに、それなのに!

 女の前には変わらぬ男。

 何度も何度も何度も、何度も繰り返したのに。

 朱いぬかるみ、広がるばかり。

「ずぅっと、繰り返した」

 目の前と足元にある男の顔が。

 笑っていた顔が、歪んで泣きそう。

「何度も何度も殺された」

 同じ月夜に同じ櫻のこの場所で、何度も。

 女の戸惑いなど気付かぬよう。

「そしてまた…閻魔に、叱られるなあ」

 冗談めかしたその言葉。

 なのに。

「今度も、時間切れ」

 染まった女を捕まえて、染まった腕で抱き締めて。

 泣きそうになって、それでも笑う。

 薄らいでいく、姿が。

「刻を越えて、何度も止めた」

 怯える女の蟀谷に。

「唯抱き締めて欲しかった」

 頬に。

「他には何も望んでなかった」

 そして最後に脣へ。

「間違えないで」

 朱の中ひとつ、澄んだ色。

「嗚呼…嗚呼…!」

 抱き締めて口付けて、男が消えたその跡は。

「嗚呼…ごめん、ごめんね…」

 朱の池だけがきらきらと。

 膝をついて泣き崩れ。

 残った赤子、抱き締めた。

「ごめんね…ごめんね…」




















― 間違えないで ―




















― かあさま… ―



















 朧ぐ我が子に、接吻を。