試作  ぴぃちたると
 

 
「ン? 起きたか」

 ソファに寝かせたグーリント伯の覚醒に気付いたレイスだが、テーブルを挟んで設置されたソファに座り寛ぎモード。

「来るのは知ってましたけどね、流石に倒れるとは思いませんでしたよ」

 膝の上です開いた分厚い本から、視線も外さず。

「え、と…レイスミンティア嬢?」

 のろりと体を起こしてみたら、毛布なんかもかけられていたり。

 寝起きも重なってグーリント伯、軽く混乱中。

「ま、深呼吸でもしてみたらどうですか」

 読み終るまでに落ち着きやがれ。

 とても伯爵に対しての言葉遣いではない。

 しかし言われた本人はさして気にもせず、もそもそと毛布を畳んでみる。

 チラリとページを捲るレイスを盗み見て、半端無いスピードで次々捲られていくページに呆気。

 本自体軽く五センチはありそうなのにあっと言う間に半分捲られ、畳んだ毛布をソファに置いてキチンと座り直したら、読み終っていた。

「……読んだ?」

「暗唱しようか?」

 パタムと本を閉じてテーブルの上に。

 その横にあったティーカップをレイスが手にして、グーリント伯は初めてその存在に気付く。

 湯気は見えないから、すっかり冷めているみたいだが。

「伯が起きたのは、はにぃも気付いた。じき伯の分を持って来る」

 言いながらカップの中身を全て飲み干し、深く一息。

「で、伯は何をお探しですか?」

 部屋の外に気配を感じたレイスが唐突に発した言葉に、何の事だか理解出来ずに困惑するグーリント伯。

 暫し流れる無言。

「あら、伯爵様のお話は仕事ではなくてよ、だぁりん」

 音も無く扉を開け、ティーポットとカップを乗せたトレイを持って入って来たランディが、双方のした誤解をやんわり訂正。

 変わらずグーリント伯を失神させた格好だが…

「し…ごと…?」

 扉が背後にあったお陰で、ランディの声が聞こえた瞬間に心の準備をする事が出来たグーリント伯、今度は強烈なメイドモドキを見ても持ち堪える事に成功した。

 二度も失態を見せるのは勘弁してほしい。

「仕事じゃないなら何で」

 不服そうなレイスの声は、グーリント伯に対してではなく、ランディに。

「だぁりんのお父様が、伯爵様にココへと仰せになったの」

 追い返せないじゃない?

 あっけらかんと、二人が知らない筈の裏事情暴露。

 驚くのは、グーリント伯のみ。

 ランディはのんびりお茶の準備を、レイスは呆れてテーブルと仲良しに。

「あー…父上もいい加減諦めてくれてもいいのに。はにぃの何処が不満なんだよ、ったく」

 多分、全部だろうな…

 思っても口に出してはいけない気がして、沈黙を守るグーリント伯、地味に学習中。

 だが、それを考えないにしても疑問はある。

「どうやって知ったんです? 人払いもして下さいましたし、口外もしていない筈」

「ふ、ん…知らないで来たならホントに依頼じゃないのか」

 新しく煎れたお茶を、多少行儀悪くすすりながら、半眼のレイス。

 用が無いならさっさと帰れ、とでも言いたそう。

 そんなレイスの隣にランディが座り、笑いながらも自己紹介を。

「ランディゲイル、ランディかランちゃんって呼んでくださいな。フルネームは能力が取られてしまいますから、ご容赦くださいませ」

 因みに第一希望はランちゃんです。

 ちゃっかり呼び方を指定するランディに、視線を向けないようにして顔を向けるグーリント伯。

 彼はとっても頑張った。

「能力と言うのは?」

「見者」

 客じゃないなら礼儀は要らん、と言い放ったレイスがランディの膝に頭を預けて目を閉じる。

 俗に、膝枕と呼ばれる行為ではあるのだが。

「見者…先読みや過去読みの一種か」

「あたしは更に遠見の複合型。だからあまり遠くは見えないけど、その代わり誤差は少ないですよ」

 嗚呼、太股にソックスが…

「だからはにぃが見れば、大体解決する」

 ランディに髪を撫でられ、うっとりした声音でレイスが補足。

 見ないようにしていても、何と言っても正面でのやりとり。

 嫌でも目に入る。

「逆なら、良かったのに…」

「あ゛?」

 思わず漏れてしまったグーリント伯の呟きに、レイスが敏感に反応を返す。

「ま、いいけどな。世間話がしたいだけなら他当たれ」

 はにぃといちゃいちゃしたいから、と憚る事なく言ってのけるオマケ付き。

 グーリント伯は考える。

 自分がココへ来た目的を、果たして言って良いものか。

 続け様に思った。

 今この時、ほんの一瞬で構わないから、誰か本気で勇気を分けて、と。

「お願いしますカミサマ…」

 最終手段は神頼み…
 

 
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