試作  ぴぃちたると
 

 
 レイスとランディが、周囲の人間を彫像に変えまくった夜会から三日。

 邸とまではいかないが、それなりに大きい家が点在する、カザン市郊外。

 その一番端に高い塀で囲まれた広い土地と、奥にポツリと建っている一軒家。

 看板も案内も無いけれど、知る人は知っている店。

 何の店なのかは、入ってみなくては判らないけれど。

 店主は変わり者との噂。

 先日の夜会主催者である、リビアン・グーリント伯爵は門の前で不審人物と化していた。

「ここ? 何かルーディアノ公の話より、大きい…」

 やっぱり帰るべきだろうか。

 だが折角教えて下さったのに、無下にするわけにも…

 ブツブツと呟きながら、右往左往。

 辺りの住民が誰も見ていなかったのは、彼にとって幸福だったのかもしれない。

 もっとも、誰か居たならばこんなに悩む事はなかったか、もしれないのだが。

「…ま、こうしていても仕方がない」

 悩み始めてかれこれ半日。

 グーリント伯はようやく腹をくくったらしい。

「ハィ決断お待ちしておりました、と」

 意を決して門に手をかけたその瞬間を見計らったかの如く、突然投げられた声。

 驚いて周囲を見渡すも、誰か居るどころか猫だって姿無し。

 気のせいにしては、ハッキリ聞こえすぎる。

「ここですよ、グーリント伯、上です」

 再び投げられた言葉に促され、見上げた先は半端なく高い塀の上。

 そこには先日の夜会とは正反対に、凛々しい騎士の如き姿をした、

「…れ、レイスミンティア嬢!」

 が、危な気無く座り笑っていた。

「まさか半日も門の前で悩まれるとは思いませんでしたよ、まったく」

 呆れた声を隠そうともせずに。

「何時から…?」

「いっそ騙されたと思って帰って下されば、無駄な時間を過ごさずに済んだでしょうに」

 降り注ぐ視線は冷たく、つまり最初から居たのだと。

「とりあえず、詳しくは中でお聞きしましょう。門を抜けて真っ直ぐお進み下さい」

 脇へ逸れたら知りませんよ。

 最後に笑って、レイスが塀の内側へ消える。

 呆気に取られて一瞬遅れたが、慌てて言われた通りに門を抜け、レイスを探すグーリント伯。

 だがそこには真っ直ぐ続く一本道と、周りを囲む木々達のみ。

 それに、門の外からはこんな森みたいに広がる木々は見えなかった。

 もしかしなくても、妙な所に来てしまった…のだろうか?

「それに私が来るのを知っていたような…」

 とにかく今は、この先へ。

 姿の見えないレイスだって、まさか自宅の庭で迷う事はあるまいと自分を納得させて。

 道すがら、時折聞こえる何かの鳴き声やうめき声にビクビクしつつ、脇目も振らず一直線。

 言われなくても誰が逸れたりするものかこんな不気味な場所恐いじゃないかっ!

 心中大絶叫のグーリント伯爵只今二十六歳。

 情けないと言われようが、腰抜と言われようが恐いものは恐い。

 人間素直が一番だとはよく言ったものだな、とか。

 思考があらぬ方向に飛び始めた頃。

「ようこそ夢幻亭へ。リビアン・グーリント伯爵」

 入口の扉前に立ち出迎えてくれたのは、とても可愛らしいミニスカートとリボンがチャームポイントな、

「……っ…!!?」

 ランディ。

 ミニスカートから覗く太股が、頭のサイドに小さく作られたお団子が、それに絡まるレースのリボンが、緩く巻かれた後ろ髪が。

 何かもう色々と限界だったらしく、グーリント伯はその場で意識を手放した。

「きゃっ! ちょ、だぁりん大変!」

 目の前で倒れてしまったグーリント伯を、素敵な膝に抱えあげレイスを呼ぶ。

「どうしたはにぃ?」

「伯爵様が急にお倒れに、どうなさったのかしら…」

 すぐさま返された返事にも、何も無い空間から現れた事にも驚かず。

 ランディの膝に抱えられたグーリント伯を、何故か恨めしそうに見やりながらもレイスはサクサク診断を。

「森の仕業じゃ無いね、大丈夫」

 応接室のソファにでも寝かせておこう。

 一応タオルと水とを用意して、暫くすれば気が付くだろうと判断したが。

「でもまた何でいきなり倒れたりなんか」

「森を歩いてお疲れだったとか?」

「いや、そんなにヤワじゃ無いだろ」

 可愛らしい服装をしていても、そこは流石美マッチョなランディ。

 意識が無くて重さ割増の人間を軽々担ぎソファまで運んだ後、レイスと二人してグーリント伯が倒れた理由について考える。

 だが二人は気付かない。

 双方にとってソレが余りにも自然であったが故に。

 出会ってからずっと見慣れてしまったが故に、気付きようが無かったとも言うが。

 まさかランディの女装姿がトドメだったなんて…

 きっとずっと気付かない。